さらば国分寺書店のオババ:椎名誠

イラスト:雪子M・GRASING

スーパーエッセイ、パート1

ついに椎名誠が北海道に移住してしまう。ズルイ!
今や53刷を数える'79年のこのデビュー作以来、全人格的肉体的に勝負だ勝負だ!と、小平を活動基盤に多くの作品を世に放ち続けていたのに。さみしい。
国分寺界隈もオババが去ってからこのかた、激しく「発展」し続け、駅のそばならぬ駅の上には丸井が乗っかり、特快も停まるという。 赤いカードとオレンジカードの便利さを追求していくうちに、さて武蔵野の木々は何本切り倒されてしまったのだろう。 海山川砂漠ズンズン行動派冒険中年の星となり世界中あっちこっち飛び回っているくせに、こうした所にも正しい怒りの感情を保っていた椎名誠だからこそ、 小学生以来の夢の旅を実現した楼蘭探検隊のルポが身近に感じられたのだろう。

蘆花や独歩によって、単なる田舎からロマンチックな理想郷に格上げされた武蔵野は、つい最近までその名声を保ってきたように思う。 だが今や、武蔵野の「野」などというものは人々の幻想の中にしか存在せず、本物を求める人々は北海道へ行ってしまうのか。 だが、今もこの土地には人々の暮らしがある。オババは今どこで何をしているのか。 駅前交番の人々は?JR改札のカバは?どうなっているのか? ぜひ武蔵野への置き土産に書いていただきたい、のだ。

めぐみ