立見席:カブいた話(1)

芝居はカブいて

地道を地でゆくマジメな劇団「ふるさときゃらばん」を創立した頃、シナリオの師匠に、マジメなだけの芝居なんて誰が観に行くかとしかられた。芝居はカブいていなきゃつまらないというのである。

カブクとは、天正(豊臣秀吉の時代)の頃の俗語で、ふざけた振舞いをするとか、異常放埓(ほうらつ)をすることとか、異様な風俗・格好をするとか、好色とかという意味のことであり、歌舞伎の語源でもある。

たしかに芝居は、日常ならざる面白さと興奮がなければつまらない。 実際私自身、どんなに社会的な意義のあるものでも、説教されそうな予感の走るマジメな新劇系の芝居は絶対観にゆかない。

だがマジメと地道を地で行く「ふるさときゃらばん」は、カブくとなると努力が要る。努力していたのではカブクことにならないが、舞台にモーテルやらヤクザやらソープ嬢を登場させると、きゃらばん流のマジメなくらしまで活気が出てきてノリがよくなるから不思議である。

人々は平坦なくらしの中で、そうした常ならざる命のノリを求めているのかもしれない。

そう言えば、この「武蔵野から」も、マジメを地でゆくような、品のいい雑誌であったっけ。

石橋克彦

vol.12(1989年3-4月)より