水物語3:玉川下水

AFTER THE RAIN:オオタマサオ

玉川下水

川のはじまり、最初の水の一滴はどんなところで生まれるのだろうといつも思う。
多摩川は山梨県の柳沢峠近く、明るい傾斜面の雑木林の、ざっくりと積もった落葉の下からはじまる。 落葉を濡らし、浸み出して小さな山水となり、沢となって落合、丹波山、小菅村へと水を集め、小河内ダムで東京の水道の約三割をまかなう水量となる。
昔は、玉川上水は羽村の取水堰から分水路の形ではじまった。 水事情の変化で今は、流域下水道多摩上流処理場の廃水を暗渠で小平監視場まで運び、自然石を積み上げた岩の間から滝のように流れ出すところからはじまる。 約20年空掘だった川底は、この時とばかり喉をうるおしたに違いない。 小金井に住む私の友人は、通水のニュースを聞いてほぼ1ヵ月後にやっと水を見たほどだ。 当時の新聞は「玉川下水」という表現で、清流とはいいがたい水源を嘆いていたが、緑や地下水などには、はかり知れない恵みとなった。
東京という都会がはじまりの一滴を自然に作り出す環境がなくなれば、今の玉川上水のような川のはじまりもまた、「あり」なのだ。

原田いづみ