想い出の街は?と聞かれると、やっぱりすぐ口に出るのは吉祥寺という答えであろう。
十代の頃の様々な想い出が頭の中を駆け巡る。 井の頭公園で酔っ払い、朝まで友人たちと寝てたこともある。サンロードでケンカしてケガをしたこともあった。
事実はたくさんあるのだが、この街を言葉で語る事ができない。そう、常につっ走って生きてきた十代だからである。 風の様に通り過ぎていった時期であったに違いない。街を味わうことなどしなかったのだ。
だが不思議なことに吉祥寺と言われると、匂いを思い出す。これが何の匂いだか分からないのだが、私の中に吉祥寺の匂いがあるのだ。
なんとも言えない心地よい匂いだ。青春時代イコール吉祥寺、そして匂い。
28歳を迎える私は、今度ゆっくり吉祥寺を歩いてみようと思っている。 その匂いが何なのか、そして匂い以外のすべてを見つけるために。
岸谷五朗
(劇団スーパーエキセントリックシアター)
vol.34(1992年11-12月)より