国分寺崖線の記憶の継承とこれからの地域連携

パネリストから活動紹介・報告

尾崎: 第3部は、今日これだけのみなさんがそろう機会は貴重かと思います。第2部では、「はけ」との関わり方や、その中での市民の交流やイベントなどありましたが、崖線地帯にこんにちの新しい意味付けをしていくことが大事なんだろうと思います。

藤木: 名水100選では、東京都で選ばれているのは2つで、御岳と国分寺です。国分寺は都市の中の、珍しい湧水ということで選ばれています。「国分寺・地下水の会」では、国分寺の井戸所有者の聞き取り調査を行い、『国分寺の井戸』という冊子を3冊発行しました。

湧水の調査も行ってきました。武蔵国分寺公園と高層住宅が並んでいるところは学校のグランドや野原が広がり、地下水を使った銭湯もありました。そこが開発されるということで有志が湧水調査を開始し、ずっと継続しています。また「真姿の池」のすぐ崖上にマンションが建設されることになり、湧き水や歴史景観を守りたい市民がいっしょに反対運動を行い、裁判にまでいきました。結局「和解」という形になり、その後「国分寺の名水と歴史的景観を守る会」ができました。

瀧本: 私ども小金井市環境市民会議は平成16年、環境基本条例に基づいて設立いたしました。今年で12年目になる市民団体です。小金井市環境フォーラム、環境講座、環境施設見学会の3つを市から委託され、行っています。他にも5つの部会があります。今日ご紹介したいのは、地下水調査部会です。小金井市でも井戸水や湧水量を測定しています。16か所からはじめ、現在28か所で行っています。行政の方でもやっていますが、市民も愛情をもってやっています。

測定の道具は最新の道具を使用していますが、以前は手作りでした。毎月の測定です。チームワークが必要です。なかなかメンバーが固定化しがちで大変です。新次郎池は10年の蓄積があります。10月をピークに湧水量は減っていきますが、4月からまた増えるということを繰り返しています。このような地道な活動を続けることが一番大切だと思います。

藤田: 私からは東京都の保全地域をご紹介させていただいて、合わせて、保全地域を利用した取り組みをご説明したいと思います。保全地域の制度は東京都の条例に基づき、地域を指定して良好な自然環境を将来に渡って守っていこうというものです。面積は758haになります。指定されると土地利用等に規制がかかります。

この保全地域を良好な状態に保つためには、行政の取り組みだけでは難しいので、地元のボランティア団体、地元市、企業、大学、NPOの方々など多様な主体のみなさまと連携しています。ただボランティア団体の方などもメンバーの固定化・高齢化などの課題を抱えています。その対応策の一つが「里山へGO!」です。こちらではWEBサイトで、気軽に参加できる体験プログラム等をご紹介しています。

徳永: 小金井市では雨水浸透事業を昭和63年にスタートさせました。雨水を屋根から雨どいを伝わせ、浸透マスに接続し土にかえす構造です。地下水の涵養や湧水復活を目的としています。もともとは近代化で土地の舗装・被覆による水の被害からでしたが、地下環境にいいということで進めています。設置率は61.6%で、率としては全国的に高い数字だと思います。

なぜ高いのかは、条例ではなくお願いで普及したことがあります。スタート当時、野川で遊んだ経験のある指定業者の力が大きいと考えています。新築の際は90%以上、浸透マスを設置の協力をいただいています。過去5年では95%近くです。市民と業者、行政が一体となって進めています。助成も行っています。雨水浸透は万能ではないですが、だからといって無駄ではないと継続したいと思っています。

土肥: グリーンネックレスは中央線の高架化をきっかけとして、沿線の緑を新しい形で考えていこうとはじまりました。いろんな専門家が集まってできました。沿線の緑地、農地をどう残すかということで、農家の方といっしょに学習する場を設けたりしました。浸透するだけでなく雨水を使ってみようということで形になったのは、小金井の環境楽習館(雨デモ風デモハウス)です。雨水の気化熱や太陽光などのエネルギーを活用しようと市民が企画しました。自然エネルギーで快適に過ごせるというものです。もう一つ、はけの学校プロジェクトはマップ作りからライブラリを作るというのをスタートさせたところです。

国分寺崖線をもっとマクロに見ると、崖線は東京の緑のとば口であり、支える柱です。人口の動態を見ると、この地域は人口も増えていて、更に、人口密度や平均所得が高く、高齢化率も低く、人口減少時代に入った日本全体から見て、都市のポテンシャルが最も高い地域ではないかと思います。こうした背景を活かし、国分寺崖線を軸に多様な連携を育み新しいアクションを起こしていきたいと考えています。

林: 3万年に及ぶ歴史を5分で説明ということですので、手っ取り早くやります(笑)。 野川流域の遺跡は多いといわれています。水場は人をひきつけますが、それにしても多いです。水の資源は、人、動物、植生に欠かせません。食糧が豊富。日当たり、水はけがよく、風を通すなど住環境は良好。また、見晴らし(景観)も重要な生活要素です。さらにローム層の下の方にかつて川底だった礫層があり、石や砂や粘土などの生活資源があります。旧石器・縄文時代を通じて石焼料理などに石を多用していますが、この石は他所から運んできたのではなく地元のものです。砂と粘土は土器の材料になります。そういう物的な資源がいろいろそろっています。

さらに野川はかつて水量が多かった。魚が多かったようです。秋川沿いの遺跡では鮭の歯が見つかっています。また、当時使われていた丸木舟は波に弱いがスピードがありました。河川に沿った交通の便もよかったのではないかと考えられます。縄文文化は環境破壊からはじまります。しかし必要以上の環境破壊はしていないというデータがあります。自然環境を破壊するのは人間の宿命ともいえますが、縄文人は環境と生活のバランスをとっています。彼らから学べるとしたらそんなところではないかと思います。

東: 今日は石でも投げられるんじゃないかとドキドキしながら来ました(笑)。スライドにある「生物多様性の価値」というのは、要は金勘定にうるさい野村不動産がなぜ生物多様性をやっているのかというお話です。プラウド国分寺は2013年秋、熾烈な入札があり、当社が落札しました。経営の視点で我々に要求されるのは、さらなる成果を出すようにというものです。予算、期間、心の余裕がありませんでした。このはげしいプレッシャーの中で取り組まないとなりませんでした。便利で万能な解答はありません。一例としてご紹介したいと思います。

どうしたら事業を完遂できるのか?いっそのこと地域住民といっしょに計画するのもいいのではないかと考えました。通常ありえないことですが。徐々にみなさんと思想を深めようと。ひとつの目論見と確信がありました。住民のメリットを実現すると同時に、事業利益も増大することが可能ではなかろうか。具体的にはシンプルで、建物を高くして容積を消化するというものです。一つでも異議がでれば頓挫していました。市民の方と作った計画でした。また集会室やカフェを地域にオープンにしました。

ディスカッション

尾崎: ありがとうございました。こういう会では一方を叩くことが多いですが、まずお互いの立場を知っていくのが第一歩だと思います。 では土肥さん、都市計画家の観点から、野村の取り組みはどのように見られましたでしょうか?

土肥: すばらしい取り組みだと思います。コスト的にハンディがあるのを逆手にとって合意形成に持っていくのが、コミュニケーション・ファシリテーションの技術ということも含めて評価できるところだと思います。もう一つ、これからは企業と市民、行政のパートナーシップづくりが大切になると思います。今までは事業者が勝手に作りましたと、説明会は形式的にというのを過去けっこうやっているかもしれませんね(笑)。けれど、これからはパートナーシップを組んでまちづくりをする、という時代の幕開けの事例じゃないかなと思います。

尾崎: 小金井市では行政との連携を図られてきていると思いますが、瀧本さん、お互いの立場を理解しながらもうまく巻き込んでいくというのが大事な観点と思いますが、小金井の市民はどのように巻き込んでいったのでしょうか?

瀧本: 行政の方と関係が作れたのは最近です。12年やっています。やっぱり継続なんですよね。続けてきたことによって、行政が市民を信頼してくださり、市民も行政に頼るという関係が生まれてきたのだと思います。

尾崎: なるほど。継続によってパートナーとなっていったということですね。先ほど藤田さんからパートナーシップとありましたが、そのへんをお伺いできればと思いますが。

藤田: パートナーシップを組むにあたり、組織内外で利害が対立することもあります。そのときは、どうしたら一番都民の利益になるか考えながら調整をしているつもりです。行政は担当の者が人事異動により数年で代わりますので、一人の担当者が継続してボランティア団体等とやりとりを行うことは難しいですが、誠意をもって聞きながら、伝えながらやっていくことが大事かと思います。

質疑応答とまとめ