少年アリス:長野まゆみ

群青天鵞絨色のメルヘン

少年アリス:長野まゆみ著(河出書房新社)

この本を読みはじめるとすぐ、ごたごたした日常から深く遊離する感覚が訪れる。

少年の姿をした鳥たちの魂、耽美的な文体になぞられる少年の宇宙観。
大正ロマンと少年探偵団を思わせる装丁、アリス、蜂蜜、耳丸、二人の少年と犬が登場する「群青天鵞絨色(ぐんじょうびろうどいろ)」の摩訶不思議な世界。

ソーダ水色の沈黙の中に「野川」と「鯨山」に、全く思いがけず再会する。

著者の長野まゆみさんは小金井の住人でもあり、この作品で文芸賞を受賞した。29歳。幼い頃、外での遊び方を知らず、土に触れなかったという。

おしず

著者からのメッセージ

台東区の根岸から小金井に越して来た時、コンクリートの地面しか見たことのなかった私は、湿り気のある土や林を前に途方に暮れてしまった。
だが今はすっかり小金井に慣れ、離れ難くなっている。

小学生の頃、一番は富士、二番は浅間山、三番はくじら山という冗談がまかり通っていた (学校は弁天山の上だったのでこの山は除外である)。

そのくじら山がなくなるかも知れないと聞いて、是非とも作品の中に入れたいと思った次第だ。
ひめじょおんが満開だった春の日に、素足で遊んだことを忘れられない。

長野まゆみ

vol.13(1989年5-6月)より

晶(2):鈴木瑩子