立見席:カブいた話(2)

生命力と危険な香り

心やさしく、仕事もまじめな好青年がいた。だが何故か恋も長続きしないし、結婚も出来ない。 私は、世の女どもはどこに目をつけているのだろうと、その青年の淋しさを思うにつけ腹立たしくなったりするのである。

私は何人かの娘さんにたずねてみた。彼はあんなにいい青年なのに、どうして結婚できないのか?あんたは彼をどう思うか?と。

娘さんたちの無責任な答えの中に、胸にこたえる一つがあった。

「野性が足りないのよネ」

その一言に私は、ガーンという衝撃とともに一発で納得してしまった。そうだよな、野性を失ったオトコなんて魅力ある筈ねえよな。

野性につながるものは生命力と危険な香りがある。

いつか山田洋二さんと話したとき、「どうしてヤクザは揃いも揃って、美人で心やさしくて頭のいい奥さんを持っているのでしょうね」と言っていた。

その時私は、ダメな男には、デキた男より女の出番があるからじゃないですかなどと言ったけれども、案外オンナの中のオンナは、危険な香りの中に男の野性を感じとり、オンナを生きているのかも知れない。

男たちはまじめさとやさしさのほかに、洗練された野性をも、みがかねばならないのだ。

石塚克彦

vol.13(1989年5-6月)より