水物語4:真姿の池

お鷹の道沿いの小川

真姿の池

国分寺駅を南に出て、多喜窪通りを泉町一丁目まで来て左に折れると、小さな下り坂に入る。 むせかえる緑の中に、水辺だけが持つ清涼な涼しさがただよう。
むかし、この緑の池の前に立って、難病を病んだ娘は身をはかなんだ。 水面に映った醜い顔を掌に汲んだ池の水で清めると、病気は治り明るい晴れやかな娘に戻った。この伝説によって、この池は「真姿の池」と呼ばれ、社が祭られている。
いま、真姿の池は日本名水百選にも数えられ、お茶やコーヒーをたてる水を汲みに人々が訪れる。 池の向かい側崖下から滾々と湧く国分寺市の災害時非常用水が、地下の貯水槽を満たしてなお溢れ出し、元町用水の水源となっている。 用水は万葉寺や旧家や屋敷林の奥に点在する湧水群の水を集めて、約1キロで野川に落ちる。
いうまでもなく湧水たちは、雨水の浸透がなければ涸れてしまう。 靴を脱いで流れに立って真姿の池を振り返ると、赤い鳥居がこんもりとしたハケ(国分寺崖線)の緑を背負っている。 地表や水面から蒸発した水滴が、雲を作り雨となってまたここに戻って来る大きな水の環の中に、私も、木々も生きていると感じる。

原田いづみ