水物語1:矢川から

青と緑(1):花森俊一

矢川から

胸さわぎの11月が来た。放射冷却が起こる季節に矢川は神秘な姿を見せる。
夜間の気温が水面の温度より低くなった翌朝、日の出とともに水面から白いもやが立ち昇る。 淡い光がミルク色のもや透かして空気の厚みと晩秋の時の流れを静かに映し出す。 特に矢川の上流部で美しいのは、川幅が狭くゆったりした水の流れが、乱反射の鏡のように覆いかぶさる枯草と空をモザイク状に映し出すからだ。
矢川は、立川市の矢川緑地を水源として国立市谷保府中用水に合流するまで、全長約1.2キロの野の清流だ。 川は湧水を集めてだんだんに水量を増し、四季多少の差はあっても例年毎秒150リットル前後を保っている。 この夏は雨のおかげで水量も多くふくらはぎが隠れるほどの水の中で、子供たちがザリガニ獲りに夢中になっていた。
東京の町の中を流れる中小河川はほとんどが湧水を源としている。野川、善福寺川、神田川、目黒川、谷沢川、白子川・・・。 川をよみがえらせるには流域の環境保全が大切なことを、町の歴史が問わず語りに示している。
萩・蒲などが群生し、植物も多い矢川をぜひ見て欲しい。

原田いづみ