紙ヒコーキ:大岡信/みなみらんぼう

中学校の国語の教科書(光村図書)で、大岡信さんは、言葉の力を桜の花びらに例えて、「人間全体が、ささやかな言葉の一つ一つに反映してしまう」と語っていらっしゃいます。 大岡さんは、深大寺の近くにお住まいでしたね。

大岡信(詩人)

最近わたしの家の近くにある小学校が、市の予算措置によってだろう、見違えるほどの模様変えをした。

深大寺の寺域に隣接する小学校で、十年余り前には拙宅の娘も通学したところである。 参道沿いの石垣や校庭を守る塀など、なにやら時代劇映画のセットめいた雰囲気さえかもし出して、十年一昔前とはうってかわった懐古的で洒落た外観の学校になった。 それを話題にしながら、これも深大寺周辺の観光価値増大のためにうたれた手かしらなどと言い合っていると、小学校へ通学する子をもったある母親が、別の新事実を教えてくれた。

調布市内のいくつもの小学校で、就学する児童数が年々減少の一途だというのである。へえ、どうしてですかとたずねると、答えはこうだった。

「このあたりも地価高騰のため、若い夫婦でこのへんに住める人がどんどん減っているのだそうです。それで小さな子も減っているのだそうです・・・」

20年ほど前、わたしが深大寺の近くに引っ越した頃は、「不便な田舎に住むものですね」と憐れむ都会人もいたものだったが、ここさえもしだいに若い人の住まないまちになっていくのだろうか。


vol.6(1988年3-4月)より


秋です。武蔵野です。広い空、ゆったり流れる「時」・・・。らんぼうさんの「ある秋の風景」は?

みなみ・らんぼう(作曲家・武蔵野市)

500円で模型飛行機を買った。ちいさな娘二人と2時間ばかりかかって組み立て、薄紙をはって霧を吹いて、枕元に置いて寝た。

秋空高く舞い上がる夢を見た。翌日、自転車に乗って小金井公園に行って処女飛行。フラフラしながら、赤トンボに混じって飛んだ。

ほんのわずかの空中飛行に大拍手。心が少年になった。

vol.4(1987年11-12月)より