紙ヒコーキ:椎名誠

「都会(まち)のターザン」椎名さん、お元気ですか?

椎名誠(作家・小平市)

家の周りからすっかり雑木林や原っぱが消えてしまい、玉川上水も両側に無粋なフェンスが張られて「武蔵野散歩」の場がほとんどなくなってしまった。

そこでまだ自然そのままの海や川を求めて、数年前から北海道脱出作戦をくわだてているのだがなかなか実現しない。

土地の取得もそこまでの道の工事も終わっているのだが、地元の受け入れがあまりにも熱烈歓迎すぎておそろしくなってしまったのである。

むきだしの自然と静けさを求めての移住の予定だったのが、今のままではかえって根本的なプライバシーが奪われそうになるのである。

うかつに動くと地元の政治に利用されそうな気配もあるので、今はほとぼりのさめるまでじっとしていることにした。

自然は消えたが都会の方がかえってやすらぐ、という奇妙なパラドックスを実感している今日この頃である。

vol.14(1989年7-8月)より

雑木林の落日:島峰譲