羊羹と五輪書:稲垣篤子

元祖武蔵野スイートここにあり

一釜に3升を3回。それ以上は小豆の風味を損なう。身体で覚えて化学する。
炭火で餡を練る手はセンサー。気温、風、湿度、火の温度・・・五感をフル稼働させて、いつもの「小ざさ」の味にする。 釜場を任せられる人を育てるのが責務。
「二代目の私の役割はこの味を次に正しく伝えること。世阿弥の花伝書と宮本武蔵の五輪書を読むように言っています」と小ざさの当主稲垣篤子さん。
吉祥寺で未明から行列のつくお店で、1本580円の羊羹は10時の販売時間やってきても間に合わないことも多々。 「並ばせるなんて申し訳ないことですが、8時半からの番号札も、お一人様5本までというのもお客様の声でそうなったこと」。
19歳から家業を手伝い、餡づくりを任されて52年。 『お金を貯金するより信用を貯金しろ』という父の言葉を守り、頑なに量産しない餡づくりを守る。
「餡づくりは真剣勝負です」。節の目立つ、へらタコの手は雄弁だ。
はす向かいのこれも人気乾物屋の「みっこちゃん」は小学校の時の同級生。と、かわいい「あっこちゃん」顔になる。