読む読書会:中国行きのスロウ・ボート(名作喫茶)

2026年2月8日日曜。午前中まで雪。キャンセルが(9人申し込み中)4人とちょっと多め。結果、参加者は進行含め6人。

誤読はクリエイティブ

簡単な自己紹介の後、ひとことずつ感想をうかがっていくと、
「文章が若くて伸び伸びしてると思いました。冒頭で、醜い双子のような二つの年に違いはそれほどない、正確に言うとまったくないとか、無くても筋には全然影響ないのに言い回しが面白くてするする読んじゃいました」「最近の作品を読んだ後だったこともありギャップが良かったです。遊んでる感じで楽しい」「2人目の中国人の女の子がとにかくかわいそうでした」「死はなぜかしら僕に中国人のことを思い出させるってところが印象的です」
などが出た。そこから、主人公に無意識に人種差別の気持ちがあるんじゃないか、死というのも日中戦争と関係していそうなどの意見に展開していった。

「3人目の中国人を主人公はあまり覚えていないのに、彼の方は逆にはっきり覚えていますよね。加害者は忘れがちだけど、被害者は決して忘れませんから」と、日中戦争説に説得力が出てくる。するとそこへ
「死は中国人を思い出させるって書いてるし…だから高校時代にいじめがあって、死者も出ているとか…?」ええ?!いやさすがに深読みしすぎでは?
「あ、そうかも!」
共感呼んだ!

しかしこれはひとつの読書会の醍醐味ともいえる。読書感想は創作なのだ。名著「読んでいない本について堂々と語る方法(ピエール・バイヤール著)」にもそんな感じのことが載っているらしい。
ちなみにこのセンで行くと、喫茶店のシーンで、3人目は腹の中で「にゃろう、あん時はよくも…」みたいに思ってたってことになって超不穏だったりする。いや面白いけど。何かが主人公の頭の中のキイを叩いて彼(中国人)を思い出した時、絶対すごく気まずくなってる…。
そしてまた別の説が出る。

中国=夢・憧れ

「著者は曲から出発して書いたと言っていました。そのイメージに盛り込む感じで、好きな小説『グレート・ギャツビー』のような、夢が消えてしまう時の切なさ、それでも尚夢に向かうみたいな情景を、この作品のラストで表現したんじゃないでしょうか。ギャツビーのラストは、昔の恋人を取り返そうとして、でもその夢はすでに潰えていたのだ、それでも私たちは流れに逆らって船を漕ぎ続ける、みたいなシーンです。

スロウボートの方も、この中国ってイコール夢や憧れのことで。僕らの夢(自分にとって特別なモノ・コト・ヒト)って僕らが作り上げた虚構だったり、理想像の反映なところがあって、実際は思ってたのと違うなってなることがあるじゃないですか。それがわかった時のもの悲しさと、でも懲りずにやっていこう、みたいな気持ちが、あるある、わかるというか」

「幻想が覚める時って唖然としますよね。著者は『スプートニクの恋人』等で『理解とはつねに誤解の総体である』って書いてるんですけど、夢と誤解って似てるような気がします」

「アドレセンス(青春)も夢の土壌みたいなところがあると思いました。『あの永遠に続くようにも思えた退屈なアドレセンスが人生の何処かのポイントで突然消え失せてしまったように』のところ共感しました。アドレセンスが退屈というのは少し意外だけど実際そうだし、でもやっぱり得難いものでもあって、いつの間にか消えちゃっててあれっ?て」

3人の中国人とのエピソード

そして、2人目の女の子への振る舞いはやっぱり単なる間違えなのだろうか、に話題が移る。「好きな子には意地悪をしちゃうみたいな感じでしょうか」「いや、最後に『誤謬とはあの中国人の女子大生が言ったように、結局は逆説的な欲望であるのかも』とあるから、主人公は無意識に彼女との関係を進めるのに抵抗があったんですよ」「えーひどい」

「なるほど、とすると、3人の中国人との関係は、日本と中国の歴史的な関係、つまり中世以前、近代、現代の関係を反映してそうです。1人目は中国人学校の先生と小学生の主人公。かつては長い間、中国というかChinaは日本よりもずっと文明が進んでいて、日本は文字すらないから漢字を取り入れたり、文明的に大人と子供だったわけです」「あ、ほんとだ、対応してますね」

「2人目の近代は明治維新の後、中国は清末くらいで、世界中に植民地を広げていくヨーロッパ列強から、アジアはお互いに連帯して対抗すべきだみたいな意見もあったけど、日本は結局帝国主義の方に舵を取りました。2人目の女の子とのエピソードも、仲良くなれればいいなと思うところもありつつ、結局距離をとることになってしまいます。

3人目は現代、この作品が書かれた1980年代の現代で、日本は高度経済成長の頃だけど、中国は社会主義や文革やらの混乱で経済的に低迷してます。3人目の元同級生も、高校時代は勉強も運動もできて異性にも人気があったけど、再会時は百科事典のセールスマンだったり、雰囲気的にもちょっと落ちぶれ気味です」

「てことは、曲から着想を得て、ラストをまず中国=夢としてギャツビー的なやつにして、中国からの連想で3人の中国人のエピソードを中世・近代・現代の日本と中国の関係になぞらえて作った、と」

「整合性ありますね。著者は世界史好きで、中央公論の『世界の歴史』全集を読み倒してますから」

主張・パスタ・不倫

「構造から作ったとすると、日中戦争の政治的な歴史観の主張、みたいなものでは特にないことになりますね。そういえば、『ねじまき鳥』なんかはパスタを茹でているシーンってことだけを決めて、そこから始めたと書いていましたから、そういうノリはあり得ますね」

「主張がないと言えば、大岡正平も『俘虜記』みたいな戦争の過酷な話を描いたり、かと思えば不倫の話である『武蔵野婦人』を書いて、君は何が書きたいんだと聞かれて、政治的な主張というより、小説を書きたかったんだと答えたそうです」

これってまるで『中国行きのスロウ・ボート』なる架空の小説があって、それをまだ読んでいなかった村上春樹があたかも読んだように語った、ようはタイトルだけを手掛かりに作った、みたいな話じゃないですか。

「まさしく。ただ架空の小説ではなく、実在の曲名という違いだけですね。ちなみに曲名から書かれたのは『ダンス・ダンス・ダンス』『ドライブ・マイ・カー』など他にもちらほらです」

おぼろげに作品の本体がみえてきた。これはけっこう的を得ているのではないだろうか。というあたりで終了時間になった。面白い脱線あり、かつ課題本の内容に迫る時間も多く、充実した回だった。

*発言の順番・内容など若干再構成しています。

名作喫茶:云々

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